長編

□がんばれ
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喧嘩は好き―――見るのも、するのも。
血が滾るようなそんな感覚がクセになる。

でも喧嘩が好きだと思う前にはもうバスケが好きだった。バスケは彼が好きだったから気づけば見ることが当たり前で、あたしも好きになっていたの。

体と精神が、共に限界を超える瞬間がとても美しいと思った。




――――…



「愛?」




洋平の声にはっとした。




「ごめん ちょっと考え事してた」




心配そうにあたしを覗き込む洋平に困ったように笑いかける。

花道の晴れ舞台でぼーっとしちゃうなんて…。




「おっ!!花道が動き出したぞ!!」


「本当だ!!」


「いよいよ出番かー!?」




「オフェンスチャージング!!白4番!!」と審判の声が響いたと同時に彩子ちゃんの悲鳴が上がった。
陵南のキャプテンの肘が赤木さんの額に当たった拍子に切れたらしく、汗と共に血が流れている。

彩子ちゃんが白いタオルを持って駆け寄り、それを受け取った赤木さんは慌てる部員たちに「大騒ぎするな」と冷静な声で言った。

そして、心配そうに顔をひきつらせた陵南のキャプテンに「すぐ戻るさ」と笑顔で答えて付き添いの晴子と共に体育館を出て行った―――去り際に「代わりはお前だ!!」と花道に託して。




「おー信じられん起用をするなぁ!!」


「勝負を投げてウケ狙いに走ったんじゃねーか?」


「言えてるな!」


「もううるさいよ!!花道の晴れ舞台なんだから!!」


「とにかく下へ行ってみよーぜ!!」




いたずらっ子のような目をした洋平に腕を引っ張られ、3バカトリオに背中を押されながら彩子ちゃんのいるコートサイドに降りた。

そういえばコートサイドから試合を見るのって初めてかもしれない。




「あ…花道やばいよアレ」




ぎこちない動き、動かない視線、なにより上手く呼吸が出来ていない。

花道でも緊張するんだなぁ…なんて失礼なことを考えてるうちにトラベリングをしでかした。

あーもう駄目、全然周りが見えてない。

更に魚住さんのフェイントに引っかかった花道は勢いよくジャンプしたのはいいものの、そのままの勢いで魚住さんにのしかかりファールをとられた。
のしかかられた魚住さんは鼻血を流し、陵南チームは大激怒。花道を囲んで文句を言うけど、当の花道には恐らくなにも聞こえてないと思う。だって相変わらず視線が一点しか見ていないから。




「あー…誰か花道蹴って…!!」




花道はやれば出来る。
だからこそ、この状況は見ているのがツライ…。

誰か一発殴るなり蹴るなりしてくれればきっと緊張が解れるはず。




「ねえ彩子ちゃん 花道蹴ってきてもいい?」


「気持ちはわかるけどそれはダーメ」


「むー」




そんな会話をしていると流川が花道を後ろから蹴飛ばしてくれた。




「ナイス流川!!」


「どあほう」




喜ぶあたしと冷静に花道を罵倒する流川に洋平たちは面白そうに笑っていた。




「流川てめぇ…!!」


「おぉ!花道の動きが良くなった!」


「一安心だね」




流川に絡む花道を見て、洋平と目を合わして笑った。やっぱり花道はこうでなくっちゃ。




「こっからが本番だ!よく見てやがれ!」




そう言って陵南の監督に指差す花道にまた笑っていると、なんとなく視線を感じ辺りを見渡す。すーっと視線を流していると、仙道さんとばっちりと目が合いニコリと微笑まれた。

うげーっとあからさまに表情に出すと、困ったように笑い、人差し指をこめかみに当てて口パクで「見てて」と伝えてきた。はっきりわからないけど、たぶんそういう意味合いだと思う。
それに対してあたしは「い・や」と思い切り顔を歪めて返したけどたぶん彼は気にもしていないだろう。


そんなやりとりをしているうちに魚住さんはフリースローを2本外し、試合が開始された。

洋平があたしと仙道さんのやりとりを見ていて、少し不機嫌だったのにあたしは気付かなかった。



「赤木の代わりは大したことないよー」という陵南選手に花道がキレるが、小暮先輩に宥められつつ魚住さんマークに戻っていく。
なんやかんやこのバスケ部の人たちは肝が据わっているなぁと度々感心してしまう。




「花道ファイトー!!」




あたしがそう叫んだ瞬間、花道は魚住さんへのパスをカットしてそのままボールを追いかけて陵南の監督のいるコートサイドまで突っ込んでいった。
監督を下敷きにしながらもボールはしっかり掴んでいるのは流石と言うべきか…。

それを見て陵南のベンチの部員の一人が「これがボールに対する執着心ってやつですね!よーく分かりましたわー!」と倒れたままの花道と監督を覗き込んでいた。

起き上った後、ナイスファイトだ、と湘北メンバーに背中を叩かれている花道の背中はいつもより少し大きく見えた。




「仙道!池上!植草!越野!どんどん俺にボールを回せ!ガンガン入れてやる…こいつの上からな!」


「なんだとコルァ!?ボス猿!!上等じゃないか…!!」




魚住さんの挑発に花道のスイッチが入り、魚住さんにボールが渡った瞬間激しい動きでディフェンスを繰り出し、そして花道がボールを獲った!!




「すごい…!!」




花道がボールを獲った瞬間体育館が沸き上がった。




「花道がんばれ…!!」




ボールを持った花道は一度レイアップシュートでゴールを狙うも魚住さんにガードされ、一度戻る。周りが流川へのパスを警戒して目配せしている中、あたしはひとり笑みを浮かべた。

花道が流川にパスするわけないじゃない。


案の定花道はフリーになった小暮さんにパスをし、小暮さんはそのままゴールを入れた。




「ナイッシュー!!」




再度ボールを獲る花道、流川への警戒をする陵南サイド、そして小暮さんへ渡るボール。そのデジャビュの様な流れにあたしは気持ち良さすら感じてしまった。

そしてこの流れが出来るのは流川がいい位置にいるからこそね。

2ゴールを入れ、湘北は3点差にまで追い上げた。




「熱いなぁ…」




たまらないこの感覚。
今日はポニーテールをしてきて正解だったかも。




「オヤジィ!秘密兵器の起用はずばり当たったぜ!なっははは!ナイス起用!まっ ちょっと遅かったけど許してやるぜ!」


「そうかね ほっほっほ」




「愛ももっと応援してくれて構わんぞ!なっはっは!」とコートに戻っていく花道に皆が笑い、彩子ちゃんは「さっきまでガチガチだったくせに」と呟いた。




「しょ…湘北ー…!がんばれー…!湘北…!」




さっきまで聞こえなかったか細い応援が聞こえると思って上を見上げると、晴子の友達のショートカットの子が頑張って応援しているのが見えた。隣では二つ結びの子がやれやれと言わんばかりに頭を振っている。

応援は声も大事ではあるけれど、何より気持ちが大事よね。

少し見つめすぎたのか二人があたしの視線に気付き、目が合った。そのまま逸らすのも感じが悪いかと思って「ナイス!」と親指で合図し、笑顔を浮かべて試合に視線を戻す。
隣では彩子ちゃんが「あと6分ー!!」とコートに向けて叫んでいた。




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