長編

□好き嫌い
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「ごめんなさい、は?」


「……」


「ほら ごめんなさいっ」




座ってる俺の目の前で、生意気な目付きで俺を見下ろしてくる愛に言葉を発するのを忘れた。
コイツ、まだ俺が助けなかったこと根に持ってやがんな。




「洋平?」


「悪かったよ 愛」


「ん いーよ」




あーあ、ったく。ほんとコイツだけは腹立たねえなぁ。




「洋平は見に行く?花道の部活」


「あー どうすっかなぁ」


「あたしは行くよ?」


「ふーん。で 俺に一緒に来て欲しいのか?」


「ばーかっ」




ニッと笑って聞くと、相変わらず綺麗な笑顔で「当たり前でしょ」と返された。あ、可愛い。




「じゃ 行くか」




花道はとっくに教室を出て行き、周りは静かなもんだ。




「おーいっ 洋平に愛〜!!」


「お前らも体育館行くだろーっ」




廊下から高宮たちが大きな声をあげて手を振っている。
あーあ、ほんとコイツらは「静か」とはかけ離れてんな。ま、面白れェけどさ。




「「おうっ」」




―――…



キュッキュッ
 ダムッダムッ

バッシュの音とボールの跳ねる音が響く体育館。

愛がバスケ観戦が趣味になったのは親戚がきっかけだったと聞いたことがある。
隣でコートを見ている愛はすごく無邪気で可愛い。
楽しそうな愛の横顔を見ていると、隣でいきなり「キャー」という黄色い声が上がる。

あ、愛の眉が不機嫌に寄った。




「洋平くんっ!」


「あ 晴子ちゃん」




声の主は晴子ちゃんで、嬉しそうに顔を赤らめているところをみるとどうやら良いことがあったようだ。




「どうして?どうして洋平くんが愛ちゃんと一緒にいるの?」


「あれ 晴子ちゃんと愛って知り合い?」


「晴子とあたしは何回かバスケの試合観戦のときに一緒になって なんやかんや仲良しなのよ」




「ね?」と愛が晴子ちゃんに笑いかけると、晴子ちゃんは顔を赤らめてにっこり笑っていた。
ふーん、晴子ちゃんは愛に気に入られちまったワケだ。この、人の好き嫌いが激しい愛に気に入られるなんてなかなかやるなぁ、晴子ちゃんも。




「左腕は大丈夫?まだ治ってないのよね?」


「ギブスは外れたんだけどね まだなかなか上手く動かせないかな」




制服の袖を捲り、包帯に巻かれた手首を擦りながら愛は苦笑いを浮かべた。それを心配そうに見つめる晴子ちゃんだったが「あたし 愛ちゃんと一緒の高校に入れて嬉しいわ」と愛の左手をやさしく握りしめた。




「晴子…」


「だって毎日会えるのよ!?すごく嬉しい!!」


「うん あたしも晴子と同じ高校で良かった」




そう言う愛はすごく嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

なかなか見れない表情を見れて、何故か俺もすごく嬉しく思った。

その後、不思議そうに俺と愛を見つめる晴子ちゃんに「俺と愛は幼なじみなんだ」と大まかに説明した後、今度は愛が晴子ちゃんにバスケ部の人達を紹介してもらっていた。




「愛が気に入った人 当ててやろうか?」




粗方紹介が終わった頃に、愛の耳元でそう言うと「ふふん」と鼻で笑い「当ててみて?」と挑戦的な瞳を向けてきた。愛のこの瞳がたまらなく俺は好きだ。




「ゴリ、彩子さん、メガネくん…だろ?」




レギュラー陣ではこのメンツだろう。ほーら、愛の顔が嬉しそうに緩んだ。




「さすが洋平ね」




「なかでも彩子さんはお気に入りよ」とはにかんだ。だろーと思ったけどよ。あーゆー姉御肌の人が好きなんだよな、コイツは。




「晴子ちゃーんっ」


「あ はーいっ」




彩子さんに呼ばれた晴子ちゃんを笑顔で送り出そうとすると、いきなり俺の隣の愛の腕を掴んで愛を連れて行った。




「あっ 晴子!?」


「愛ちゃん!彩子さんを紹介するわっ!」


「え えぇ!?」




焦った顔をしていたが、その表情のなかに少し嬉しさが混じっているように見えた。だから俺は、かなり、晴子ちゃんに感謝した。アイツは今まで女友達という存在にあんまり縁がなかったからな。




「取られちまうかもな」


「あ?」


「今度こそ バスケにさ」




大楠がいきなり、んな事言うから思わず眉を顰めた。だって、意味が分かんねェ。




「愛が楽しそうならそれだけで俺は満足さ」


「ふーん?」


「な なんだよその目はよぉ…っ」




やらしい目で俺に詰め寄る3人に思わず焦る。




「愛の幸せは俺の幸せってか?洋平くんてば健気だねぇ〜」


「あ ば…っ!!」




ゲラゲラと笑う高宮をとりあえず殴ってから、大楠とチュウに詰め寄る。




「お お前ら…っ 俺と愛はそんなんじゃねェよ!」


「はいはい」


「分かってます分かってます」




分かってねーな、コイツら…っ。
ま、いーさ。本当に今は、これ以上だなんて望んでねぇんだ。隣にいて、笑って、触れられる。これ以上に望むもんなんてあるか?




「洋平ぃ〜っ」




ぽすっと胸に飛込んできた愛を反射的に受け留める。




「どうした?」


「あ あああ…」


「あ?」




あー、くそ。ニヤニヤすんじゃねぇぞ、俺。
つか、お前らがニヤニヤすんじゃねぇよ3馬鹿トリオ!




「彩子ちゃんに…っ!」


「彩子さんに?」


「彩子ちゃんにほっぺにちゅーされた!!」




顔を上げて、そう告げられた俺はすげえ間抜けな顔のはずだ。愛の表情は喜々として、ものすげぇ嬉しそうだからまぁ嬉しんだろう。




「こーらっ 逃げんじゃないの!」


「うきゃあっ!?」




俺から引き離され、今度は彩子さんの腕のなかの愛。驚いて、少し赤くなった顔はなかなか見れないレアな表情だ。




「アンタの彼女?」


「ち 違…っ」




ニヤッとした顔の彩子さんに、俺の代わりに愛が焦りつつ答えた。




「ふーん?」


「あ 彩子ちゃ…っ!」




身動き取れない愛の胸を…彩子さんが…あー、いきなり掴んだ。




「ふぎゃああっ」


「あら 意外と大きいのね」


「や 彩子ちゃん…っ!!」




目も当てられないほど揉みまくられてる。バックは「おぉーっ!」と美女と美少女の絡みに興奮してるが、俺はなかなか乗れなかった。




「あんまイジメないでやって下さいよ」


「あーら やきもちィ?」


「洋平 やきもち?」




はあ…。なんだ、この2人はなんなんだ。




「焼きもち妬いて欲しいワケ?」




女友達というものも考えもんかもしれねぇな…。




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