長編

□思い出す
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あたしが人嫌いなの知ってるのに、なに笑ってんのよ!洋平と花道のばか!

ぐんぐんと廊下を不機嫌MAXで突き進むあたしを皆避けていく。そんな酷い顔してる?あたし。
少し視線を窓の外に向け、綺麗な緑色の葉が湿気を含んだ風になびく様を見てると、いきなり前方に真っ黒な壁みたいなものが現れそのままぶつかった。




「っきゃ…」




ギブスは外れているものの、まだ片手が使えないままで受け身を取れだなんて、神様はそんな無謀なことをあたしに強いるっていうの?
とっさに目をつむり悪態つくけど、それは一瞬にして杞憂に終わった。




「…悪い」




そう耳元で囁かれ、目を開くと整った顔が視界を一人占め。状況を把握するのに2、3秒固まり、把握した瞬間目の前にいる男の顔に平手打ちを食らわした。




「っ 何しやがる」


「…あ!ごめん流川!!」




あたしに殴られた頬を軽く掻いている男を見上げ、勢いよく目の前で手を合わせて謝った。




「なんで殴った」


「びっくりしちゃって…!ほんとごめん!」




「じゃ!」と横を通りすぎようとした瞬間、腕を掴まれた。




「わ…!?なに!?」


「…手首 どうした」





真剣な眼差しの彼を数秒見つめ返した後、掴まれた手を軽く払った。




「あたしだって怪我くらいするよっ」




それだけ言って「じゃあね」と話を切り上げ、屋上を目指した。

富ヶ丘中の流川 楓―――天才と呼ばれているプレイヤー。
中学時代、バスケ観戦をすることが趣味だったあたしは彼の出ている試合をよく見ていた。
バスケ観戦をしていると他校の生徒が観戦席にくることもあったりして、流川とは観戦席で話すようになった。細かいルールや、観戦で注目するといいテクニック、選手の癖など。
お互いあまり話すタイプではないから仲良くとまではいかなかったが、顔見知り程度の仲ではあるかな。

まさか流川がこの高校だったとは思わなかったなぁ。











「お前 花道達に大切にされてるらしーなー」


「誰?アンタ等」


「へぇ なかなか綺麗な顔してんじゃん。スタイルも良いしよぉ。ヤっちまうか?ははッ」





舐めるような視線に、下品な笑顔。気持ち悪いと、悪寒が背筋を伝う。総勢5人、女のあたしに勝ち目はない。でも、タダでヤられるほど、弱くもない。




「下衆」




あたしのその一言にキレた彼らは、ヤるヤらないの次元でなく、殺る殺らないの次元であたしを囲った。そう、あたしの挑発にまんまと乗ってきた。

殴られ蹴られを繰り返し、バキッと体の中で音がした瞬間――冷水をぶっかけられたかのように頭の熱が引いた。




「ぅあ…っ!!」


「へ、左手もーらいっ」





悪魔の声に聞こえた。左手は、あたしの利腕だったから。手首から先が動かない。折れるってこんな簡単なの?そっから今度は一気に頭に熱が上がった。




「いやぁあっ!!」




ひたすらに、あたしの腕を折ったヤツを蹴り続けた。周りがいくらあたしを止めようとも、ただそいつだけは片付けなきゃいけない――そうあたしの頭が訴えていた。たぶん完全にキレていたいたんだと思う。

ヤツが地面に突っ伏し意識を飛ばした瞬間、熱が引き、激痛と寒気があたしを襲い、目の前が霞み出した。




「愛…っ」




駆け付けた時の花道の顔ったら、一生忘れられないわ。今にも泣きそうな、後悔とかやるせなさとか、いろんなものが混ざりあった表情で。あたしよりも痛そうな顔に思わず笑ってしまった。




「ふふっ」




屋上への階段を上りつつ、つい数ヶ月ほど前のことを思い出して笑みを溢した。

元々洋平はあたしに対してとても過保護だったけど、あの事件をきっかけに輪をかけて過保護になったし花道たちもあたしを決してひとりにしなくなった。
花道たちに囲まれていると人が寄ってこないから居心地は良いし、人嫌いのあたしには丁度よかった。




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