長編

□飛び込む
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ざわざわと騒がしい学校の朝の廊下。その中を肩で風を切るように凛と歩く一人の少女。
頭の包帯や頬の湿布はなく、左腕も微かに袖から包帯が覗く程度で一見普通に見える。
病室で彼に向けた笑顔が夢だったかのように、その整った顔は無表情を突き通しており、周りにいる生徒達の視線を釘付けにしながらも少女は視線を交える気はさらさらないのか前だけを見つめて廊下を歩く。




「ねぇっ」




一人の男子生徒が積極的にも少女に声をかけた。が、少女は自分が声をかけられているだなんて思ってもないようで依然綺麗な足取りで廊下を突き進む。
痺れを切らした男子生徒は少女の華奢な肩を掴んだ。そこでやっと少女と視線が交わる。




「何?」


「えっと、君…名前なんて言うの?」




男子生徒の言葉を聞いた瞬間、眉間に皺を寄せて「どうしてアンタに名乗らなきゃいけないの?」とつっけんどうに返した。もごもごと何を言いたいのか分からない彼に、今度は少女の方が痺れを切らしてパンッと気味の良い音を立てて彼の手を払った。情けない男子生徒を廊下に残し、少女は去って行った。

ガラガラッと教室の扉を開けると、一斉に教室の中にいる生徒の視線は開いた入り口に集中した。
世にも稀に見ない美少女の登場にクラスメイトはぽかんと口を開き、ただただ見つめている。その視線を気にした様子もなく、さらっと流し教室全体に視線を向ける。そして、すぐに目当ての人物を見付けられたのか、さっきまで無表情だった顔がいきなり綻んだ。




「洋平っ!花道っ!他っ!」


「愛!?」




大きな瞳を嬉しげに細め、髪を靡かせ駆け寄る。その間、「他」と称された3人はぎゃあぎゃあと騒いでいたが、愛の肘鉄が飛んで来たと同時に撃沈。




「おまっ いつ退院したんだよ?」


「花道 バスケ楽しい?」




洋平の声に答えることなく、愛は赤い頭の桜木花道にニコニコと聞いた。「ったりめーよ!天才バスケットマン桜木と呼んでくれてもいいぞ!がはははっ」と調子の良い花道の声に苦笑しながらも、洋平は「俺の質問に答えろ」と愛の頭を軽く何回か叩いた。




「昨日の朝!だから言ったじゃん もうすぐ退院できるって」


「言えよ 迎えに行ったのに」


「洋平は過保護なの〜っ」




いーっと綺麗な歯を見せて愛は洋平に踵を返し、頭をさすってる3人に「ただいまっ!のん、チュー、ゆう」とにっこり笑った。




「古田愛、以後高校生活を満喫しますっ!」




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