長編
□変化のある日常を
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1・長い一日の、始まり
「ちょっ!ガウリイ!それあたしが狙ってたのよ!?」
「ばかいえっ!こりゃあオレの皿のエビフライだぞっ」
「ふっ。そっちがその気ならこっちだって!秘技・リナちゃんフォークすぷらあっしゅ!ていていっ」
「ああああっ。オレのカキフライ!くっ。それなら…」
はあっ
「…ゼルガディスさん。わたし、今日リナさんとこの町の行列のできる美容室に行こうって約束してたんです」
「──ああ。それなら聞いたさ」
「…二つ前の村でうわさを聞いて、あわてて用意して。本当なら二か月待ちなのに、こうして予約が取れたんですよ?」
「それも知ってる」
アメリアがリナの誕生日に何かしてやりたいというので、一日ドレスアップしてのんびり過ごさせてはどうか、と提案したのはほかでもない自分だ。
…いや待て。『ドレスアップ』と言ったのは俺じゃないぞ。
そのときアメリアは『ゼルガディスさん!それでいきましょう』と言うなり、ほとんどだれとも顔を合わせることなく今日までもくもくと準備していたらしいのだが。
「ならっ!ならどうしてリナさんは今もごはんを食べてるんですか!?もう予約の時間、過ぎちゃってるんですよう」
「そんなこといわれてもな」
本人に気づかれぬよう、それとなく誘ってみたり、プレゼントをするために引き受けていたしごとのほうも早めに片付けたり。
そういったあれやこれやが、アメリアのここ数日間の苦労が分からないわけではない。
だが、相手はあのリナだ。いつもの旦那との食事バトルが、今日にかぎって長引いてしまったのは──まあ、こうなってしまったからには考えても仕方のないことだろう。
「なあ、このさい説明してから連れて行ってはどうだ?それなら確実だろう」
「だめですっ!このプレゼントは『さぷらいず』なんです。だいいち、今のリナさんに説明しても、料理に夢中で聞いてくれるかどうか…。
そうじゃあなくても、テレてしまっていやがる、という可能性もありますし」
そういって肩を落とすアメリア。
何とかしてやりたいとは思うのだが、いかんせん、自分にはこういったときの対処法など思いつくはずがない。
俺たち二人(ガウリイはむろん除く)は、いまだ盛り上がっている二人をよそに、重苦しい雰囲気に包まれていたのだった。
助け舟は、意外なところから出た。