長編
□あたりまえの日常・前編
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1・呼ばれて飛び出たあの女
はむっ
──ひとくち頬張れば至福の味♪〜グレイスの手作りキッチン〜
そんな看板につられ、あたしたち四人は今日のお昼ごはんをこの食堂に決めたのだった。
入るとき、なぜかアメリアは複雑な顔をしていたが…なんかまずかったかな?
でも、そんな疑念はすぐ取り払われた。
「し、しあわせえぇvv」
口いっぱいにひろがるかにクリームのやさしい甘さ。
そして、外の衣は余分な油を一切吸っておらず、みごとなまでのキツネ色。かじるたびにパリパリとした触感が感じられる。
はっきしいって、かなりうまい。
平凡なメニューだからこそ要求される、料理人の腕。
こんなのウチでも作れるよぉ、と言われた日には、店など出していられない。
「やるわねおばちゃん。あたし、こんなにおいしいかにクリームコロッケ久しぶりに食べたわ」
「そうかい。そりゃあありがとう、お譲ちゃん。まだほかにもあるからね。」
そのやりとりが一時間ほど前のこと。
いまあたしたちは店にあるそのコロッケをありったけ食べつくし、更なる美味を求め、別な揚げ物を頼んでいたのだが───って!
「ちょっ!ガウリイ!それあたしが狙ってたのよ!?」
つい油断していた。
あたしはすかさず回想を中断し、フォークを構えて臨戦態勢に入る。
「ばかいえっ!こりゃあオレの皿のエビフライだぞっ」
「ふっ。そっちがその気ならこっちだって!秘技・リナちゃんフォークすぷらあっしゅ!ていていっ」
「ああああっ。オレのカキフライ!くっ。それなら…」
はあっ
口に戦利品のカキフライをくわえつつ、手はガウリイのフォークを牽制したままそちらに目をやると。
カップを傾けつつ、なにやらゼルとアメリアが辛気臭い顔で話をしていた。
あいにく会話の内容までは聞こえてこない。
というのも、あたしとガウリイの二人でたのんだメニューで、本来ならば五人がけの席あーんどテーブルが埋め尽くされてしまい、料理がきて早々彼らが空いているほかのテーブルに移ってしまったから、なのだが。
…あれ…?そういや、ふだんなら参戦してくるアメリアまで、ゼルと一緒に席を移っている。
なんでだろ…?
まあいっか。二人のことはほっとい…もとい、そっとしとくとして、今はこっちに集中集中!
…でも……なんか忘れてるような…。
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