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□不器用ディスタンス
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批判の視線に気付いた白哉が書類から目も上げずに問う。
「…何か、言いたいことでもあるのか」
「いや、隊長と俺の差を思いっきり感じてたトコなんで、気にしねェで下さい」
「…ならば一層精進することだ」
そら、此処の字が違っている――と、誤字を指摘され恋次の顔が羞恥と怒りに歪む。
「率先垂範…私の副官たるもの、文武両道であれ」
「……っ、精進っ、します…っ」
意味は理解出来なくとも、そんな叱責一つで重い霊圧をビリビリと肌に感じる。
些細な事一つで適わないと思ってしまう。
だから、喉元まで出かかった口答えを腹に飲み込んだ。
文武両道。
その言葉の意味ぐらいなら知っているが、今の自分には重い言葉だ。
副隊長まで登り詰めたとは言え、自分はその『武』すら極めていないのではないかと不安になる。
隊長の存在は自分の目標である。
それと同時に打倒すべき存在。
だというのに今の自分はどうだ。
飛び越えるべき壁が目の前に在るというのに、越えられない現実。
何とも言えないもどかしさが常に肚の底にわだかまっている。
いつかそれを越えられるのか、それともその前に――
「恋次」
そんなことを考えていると、白哉が不意に書類を手繰る手を止めて鋭い声を発した。
顔を上げれば厳しい色を宿した瞳がこちらを捉えていた。
「今朝、三番隊へ赴いたそうだな」
その険しい声と霊圧にまずったかな、と疲れた顔を更に歪める。
上位席官が大したな用もなく他の隊舎に訪れること自体稀だ。
禁止されているわけではないが、隊に於いての不文律というものである。
況して三番隊の評判と言うものはあまり良い物ではない。
あの市丸の度重なる悪戯が悪評を呼んでいるのだ。
恋次の知らぬところで白哉もその餌食となったことがあるらしく、彼に対して嫌悪に近い感情を抱いているようだった。
規律に厳しく、生真面目な白哉がそれを快く思わないのは目に見えて明らかだった。
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