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□不器用ディスタンス
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横では涼しい顔をした隊長――朽木白哉が茶を音も立てずに啜っている。
「…兄が書類の決裁を上げなければ、私の仕事は無いのだ。理解しているな」
「……わかってますって…っ」
どこまでも冷静な声の叱責に歯軋りをしながら恋次は先日の戦闘結果の報告書に判を捺した。
しかし苛々して捺した印は曲がってしまって、しかも朱印が掠れてしまっている。
舌打ちすると白哉が冷静に咎めた。
「…印は、曲がらぬようにな。捺した者の品性を疑われる。掠れたものも同様だ」
「……っ!! ……っ!!」
その言葉に返事すら出来ぬほど、恋次の苛々が最高潮に達した。
額に青筋が浮いているが怒りを堪えて必死に息を整えている。
けれども同じ部屋にいる三席以下はそのやり取りを優しい笑みで見守っていた。
六番隊のこうした二人のやりとりは日々の中に溶け込んでおり、日常茶飯事。
「兄にはまだ学ぶべきところが多い…その字のみは秀逸だが、な」
「…そ、そりゃどうも」
そのやり取りに白哉以外がぞっとする。
朽木隊長のセンスは独特だ。
前衛的、と言えば聞こえは良いのだが、彼がデザインを手掛けたあの緑の大使を見ればよくわかること。
つまり、恋次の字は…推して知るべし。
 

それから一時間ほどかけて、恋次はやっと書類の決裁を終えた。
大仰なため息と共に時計を見れば既に時刻は正午近くなっている。
白哉は恋次が書類と格闘している間、地獄蝶の連絡を受けていたようだが、その内容までは聞き取れなかった。
むしろ書類に集中して、他に気を配る余裕など無かったと言っていい。
ただ自分に何も無かったので大した用事ではないのだろう。
「つ、疲れた…」
頭から煙でも出しそうな勢いでぐったりと机に臥す姿を見かねた三席がお茶を持ってきましょうと苦笑した。
それに軽く礼を言って辺りを見回すと、他の者たちは持ち場にでもついたのか、鍛錬に出かけてしまったのか。
執務室には隊長と自分の二人しか残っていなかった。
その隊長はというと、先ほど必死になって決裁した書類に黙々と判を捺している。
さっと見ては静かにかつ優雅に判を捺すその姿は恋次と比べると月と鼈である。
そのどこか機械的な姿をぼんやりと見ながらホントに読んでんのかよ、と恋次は胸中で毒づいた。
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