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□不器用ディスタンス
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「もう…朝か」
うっすらと朝日の差す廊下に、まだ他の隊員の姿は無い。
それでも半時もすれば出勤する皆がやって来るだろう。
ぼんやりとそんな事を考えながら歩いていると、遠くに見知った霊圧を感じる。
それは段々とこちらに近づいて、やがて廊下の角からその赤い髪と長身が現れた。
「…阿散井くん?」
「おっす」
いつも高く結い上げている髪を下ろし、どこか大人びて見える。
見たところ隊服でも無いが一体どうしたというのだろう。
「こんな早くにどうしたって言うんだい。何か火急の用?」
「いいや、テメェが残ってるって檜佐木先輩から聞いたからよ。朝稽古のついでに、差し入れだ」
そう言って渡されたのは、弁当の包み。
「もしかして、昨日先輩から飲みに誘われたけど断ったから…」
「だな。あと、コレも食っとけ」
ぶっきらぼうに渡されたのはまだ温かい、紙袋に入ったたい焼きだった。
それを受け取って懐かしさに苦笑する。
「…そういえば昔も、こんな風に朝からたい焼きもらってたね」
「お前が朝食えねぇとか抜かすから俺のおやつ、仕方無しにやってたんだろーが」
「なんだか、懐かしいね」
「…まあな」
昔からこの友人は何かと自分を気遣ってくれる。
ちょっと不器用だし馬鹿だけど、いい性格だと思う。
「ちったぁ栄養あるモン食わねぇと倒れるぞ、オマエ」
「うん…ありがとう。最近は食欲、少しはあるよ」
「おう。ならイイけどよ。ちゃんと部屋まで行けっか?」
「今日はそこのお部屋を借りることが出来たから…とりあえずそこで寝るよ」
「そうか…ならいいけどな。何かあったら俺でも先輩にでも頼れよ」
いつもより心配の度合いが酷い気がするのは、もしかして相当酷い顔をしているからだろうかと、不安になって聞いてみた。
「あの…僕、そんなに酷い顔してる…?」
重く頷いて、恋次は苦い顔をした。
「鏡見てみろ。今にも死にそうだ」
「…わかった。もう寝ることにするよ。朝早くにありがとう、阿散井くん」
「それがいいな。んじゃ、遅刻しねぇうちに俺ァ帰るわ。じゃあな」
片手を挙げ去っていく友人の背が見えなくなるまで手を振って、イヅルは件の部屋へと向かった。
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