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□鬼と桜
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「どうだい?」
「…もう、子ども扱いせんといてって言うてますやん」
「そんなこと言わずに。良い眺めだろう。遠慮せずに居るといい」


恥ずかしくて腕から抜けようとするけど、藍染さんは離してくれない。
人のいい笑顔で暢気に、やあ、船が行くね――なんて言っている。
その笑顔に騙されそうになるけどこのお人の本性はこんなものじゃない。
聖人君子の顔の裏に隠された、蛇蝎の貌を知っている。
黄昏みたいに悲しくて怖いお顔が在る。
あのお顔も抜き身の刀みたいで、背筋がぞくぞくして好きだけれど。
今の陽だまりみたいな優しいお顔も悔しいことにボクは好きなのだ。


――でも、好きやなんて絶対言わへん。


きっと調子に乗るだけだし、言ってなんかやらない。
だから何でもないという顔をして、ボクも遠くを往く船を見る。
藍染さんは何も言わず背中を撫でた。
二人で黙って海を見る。
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