other

□はるのうた
2ページ/6ページ


給湯室に向かうとイヅルは慣れた手つきで茶の準備を始めた。
ギンの好む銘柄の玉露を淹れて、差し入れでもらった和菓子を載せて隊首室へ行く。
中では二人が難しい顔をして書類を広げているところだった。
まだ時間がかかるということで、お茶を出すととても喜ばれた。
「藍染隊長、この子はほんに気の利くええ子でしょ? おおきになァ、イヅルー?」
「そ、そんな…大げさですよ、市丸隊長」
頭を撫でられてイヅルは恐縮するばかり。
その光景を見ている藍染の口元が柔らかく微笑む。
「謙遜することはないさ。吉良くんはよくやっていると思うよ。市丸の世話は手の掛かる子供のようで大変だろう」
「あ、いえ…その、お世話させて頂いて、光栄だと思います…」
「藍染隊長、その言い方、おかしゅうないですか。ボクもう立派な大人や。イヅルもそこは否定し」
ギンは和菓子を手にして拗ねたように頬を膨らます。
それを聞いてイヅルが慌てて『こ、子供ではありません…多分』と消え入りそうな声で言う。
藍染がそれを聞いてふふ、と笑みを零す。
「そういう所が子供なんだよ市丸。ご覧、吉良くんが困っているじゃないか」
「ええんです。イヅルはこうして困っとるお顔も可愛いんやから」
「やれやれ。吉良くんが苦労するわけだ」
その言葉にイヅルは曖昧に微笑み、ギンは鼻高々という面持ちで大きく頷いた。
「ま、うちのイヅルが一番ですわ」
「うーん、そう言われるとなんだか対抗心が湧くね」
「対抗心やて?」
「ああ。では僕も言わせて貰うけれどね、雛森くんは実にいい部下だよ」
「こら、お熱いこと。でもボクは雛森ちゃんよりイヅルのがええ子や思います」
「ふふ、そう言われてしまったら僕も譲れないね。吉良くんには悪いけれどね、雛森くんの方がいい子さ」
笑顔のはずなのに何だか火花が散っているように見えるのは気のせいだろうか。
そのやり取りに居た堪れなくなって、何かあればお呼び下さいと頭を下げて、イヅルは急いで部屋を出た。
.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ