三番隊/弐

恋々寂々浜千鳥
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ある晴れた日のこと。
部屋の掃除をしていたら、本棚から一枚の封筒が落ちた。
宛名も何もない、ただのまっさらな封筒。
裏を見ても何も書いていない。
封もされていないそれは綺麗で、どこか清らかだった。
しかし手には中身が在ることを伝える厚みがある。
けれど、何が入っているのか皆目見当もつかない。
記憶にないそれに首を傾げながら、取り出す。
三つ折りにされた二枚の便箋。
透けて見えるそれには細かな文字があった。
開く。
何の衒いもなく、期待もなく。
けれど、かさかさと乾いた音を立てたそれに心が騒ぐ。
全てを開いて、息を呑んで固まった。
「ああ――」
その場で震えて、膝を折る。
癖のある筆跡を追いかけて追いかけて、薄いその紙。
滲み出る感情。
溢れ出す恋情。
たったの二枚が鉛のように重くて、崩れた。


手紙だった。
恋文だった。


あの方から頂いた、それは確かな恋文だった。
見開いた目は文面から離れない。
握り潰しそうになる衝動と泣き出したくなる切情を抑えて、胸が、目頭が熱く燃える。
遠い過去が、鮮やかに僕の中から押し寄せた。
手紙をもらったのは、寒い冬の頃。
末尾の日付を見ずとも思い出せる。
隊長と、喧嘩をした後だった。
謝りの言葉を口にするのが気恥かしいのか、手紙を下さった。
あの方からの、最初で最後の文。
慣れない文に苦労したのだろうか、文面は文章的に文法的に間違っているし、誤字も脱字もある。
墨で黒く塗り潰した文字だっていくつもある。
けれど、それだけの想いが、生の感情がそこには生きていて。
仕舞っていたことさえ忘れていた。
いや、忘れたかったのかもしれない。
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