三番隊/弐

しあわせの数字
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秋の日差しが麗らかに落ちる昼下がり。
イヅルは目当ての姿を発見してほっと溜息を吐いた。
隊舎の隅の人目に付かない一角で彼は飴を床にばら撒いて座っていた。
一瞬、見惚れてしまって頭を抱える。
くらくらと頭痛がするけれど構っていられない。
「…隊長」
「あ、見つかってもた」
悪びれた風でもない声に、苛立ちが募る。
けれどそれを隠して、イヅルはゆっくりと言葉を繋いだ。
「…隊首室にお戻り下さい。特段に仕事があると言う訳でもないのですが、これでは他の隊員に示しが付きません」
出来るだけ不機嫌にならないよう刺々しくならぬように言葉を選んだつもりだ。
視線の先の市丸は呑気に口を動かしながら飴を舐めている。
そうして小首を傾げた。
「んー、そやな。お散歩飽きた。戻ろか」
「…ありがとうございます」
仕事がないとは言え無断で散歩に出かける己の上司の奇癖に胃痛を覚えつつ、イヅルは様々な文句を飲み込んだ。
言ったところで暖簾に腕押しだ。
戻ると云った彼の言葉が翻らないうちに、促す。
「では、早急にお戻り下さい、隊長。僕はこれから五番隊に書類を届けましたら戻りますので」
「ん。早よ帰って来ぃや」
イヅルはその言葉に一礼して答える。
ギンは鷹揚に頷くと、
「ほな、ボク見つけてくれたご褒美」
そう云うと手に鮮やかな色の紙に包まれた飴を握らせた。
イヅルは何も云わずそれを懐に仕舞う。
ギンは上機嫌に、跳ねるように白い羽織を翻して隊首室へと向かって行った。
その姿が完全に見えなくなってから溜息を一つ。
そして残されたイヅルは人を呼んだ。
この散らばった飴の片付けを頼んでから、ついでに拾い終えたら隊首室へ届けるように言付ける。
この様子を見て、何があったのですか、と歳若い隊員が聞いてくる。
イヅルはそれにただ疲れた笑みを浮かべ、隊長の気紛れだよ――と伝えると若い隊員は納得した顔でいつもお疲れさまです、と苦笑した。
そうして五番隊まで書類を届けて、処務を済ませたイヅルは休むことなく隊首室へと戻った。
手には和菓子の包みがあった。
五番隊に寄った時に、藍染からお裾分けと渡されたものだ。
給湯室に寄って二人分の茶を淹れることにする。
もしかするとギンが気紛れに任せて不在の可能性もあったが、どうやらそれは杞憂のようで、室内からは見知った霊圧を感じることができた。
失礼します、と断って戸を開く。
そこには机に行儀悪く腰掛けたギンが手のひらで飴を弄んでいた。
「おかえり、イヅル」
「申し訳ありません…少々遅れました」
「構わへんよ。なんか報告は?」
「はい。先の報告書の内容に五番隊からは異論無しということでした」
報告をしながらイヅルは来客用の机に茶と菓子を置いた。
ギンがクスクスと笑い出す。
すかさず菓子を手に取って手に載せる。
しかし、それを食べもしないのに、指先で突いて遊んでいる。
「あのおっさんの好物やん、コレ」
高価いんやで、と意味深な顔で笑うギンにイヅルはどう反応していいかわからず、
「はあ」
と応えた。
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