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□律の風に椿震え
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市丸隊長が居られなくなって。
僕にとっては天地が引っくり返る事でも、死んでしまいたいと思う程の事でも。
日は昇り沈み、世間は世界は構わず動いていく。
自分が世界と言う名の歯車の一部でしかないことを痛感させられる。
僕一人の存在が消えてなくなろうとも何も変わりはしないのだ。
けれども今の僕は世間――三番隊に対する責任とか、市丸隊長に対する未練だとかそう言ったものにしがみ付いて生きている。
そんな僕を内包し、置き去りにして尸魂界は取りあえずの平穏を取り戻していた。
何千と重ねた日常を今日も繰り返す。
平和、という名のもとに。
それでも事情を知らぬ隊員たちは騒々としていたし、先の戦いでの傷跡が彼方此方に残っている。


僕の胸には空虚が残った。
癒すことの出来ない傷が在る。
胸に空いた傷から血を流し、僕は砂を噛むような日々を送っていた。


様々な傷跡は目を背けようとも残酷なまでに僕を苛む。
中でも、雛森くんの存在は重い。
彼女は未だ臥せったままだ。
僕はあの方の気紛れか温情で身体に傷一つない状態であの動乱を過ごした。
でも彼女は最愛の人に、裏切られ命を落としかけた。
身体は恢復をしても、心は僕と同じ――いやそれ、以上の辛さを抱えていると思う。
何度か見舞いに行ったのだけれど、彼女の嘆きや悲しみが鏡に映った自分の様で、怖かった。
彼女をあんな風に追いこんだのは自分の所為でもあるし、胸がとても痛んだ。
そして他の人もそれぞれに傷を負い、抱え日々を過ごしている。
でも、現実は流転する。
阿散井くんや日番谷隊長、他の人たちは現世へ派遣された。
遠くない未来、いつか市丸隊長たちと邂逅し戦うための手段も講じられている。
そんな目まぐるしい日々の中、檜佐木さんだけが以前と変わらぬ様に見えた。
九番隊は東仙隊長の穏やかで理知的な気質――今となっては疑わしいが――があってあまり戦闘的な作戦には参加していなかったように思う。
だから僕の九番隊の印象は瀞霊廷通信の締め切りで齷齪している雰囲気だ。
有難いことに毎号僕も連載を持つ身でお世話になっているし、檜佐木さんとそう言った面で話すこともあるから、尚更その印象があるのかもしれないけれど。
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