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□鬼と桜
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桜吹雪が海に散る。
春の陽気が水面を黄金色に輝かせている、うつくしい午后。
ひらひらと風に吹かれて白い花が舞う様を見ていた。
任務を終えた、残心の一時。
足元には生々しい真紅の吹き溜まり。
草履が吸い上げる濡れた感触が足袋を通して伝わる。
不思議と不快感は無かった。
寧ろ、こうして噎せる様な血の匂いの中に佇むのは落ち着く。
滑る血が段々と凝固していく過程を感じながら春の終わりを楽しむのも悪くない。
ぼんやりと風に吹かれていると、背後に見知った霊圧が現れた。


「ギン、どうしたんだい」
「海が綺麗や思て」
「そうかい。ならもっとよく見えるようにしてあげよう」


藍染さんが朗らかに笑ってボクをひょいと抱えた。
叢が濡れた音を立てる。
彼の足も紅に染まっていた。
けれど藍染さんは血溜まりを気にした風もなく、岬の先端に立つ。
確かによく見える。
遠く遠く、潮の流れもはっきり。
けれどボクの心は晴れない。
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