その他

□WIIL
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「なぁ跡部ぇ、一年のときさぁ、お前すごかったよなー。」

部活が終わって、ブラブラと街中を歩いていると、向日が急に話はじめた。

「アーン?いつの事言ってんだ?」

「んー?ほら、一番最初も、先輩倒したのも。」

凄いって、あんなの当然だろ?

「あん時の先輩の顔!!面白かったよなー!あとさ、体育の時間も…」

それからというものの、向日は思い出すたびにベラベラとそのときの事を話していた。

その顔はとても子供っぽくて、中3には見えない。
はしゃいでいると言うか、懐かしく思っていると言うか…

「ほんと跡部と友達になれて良かったぜ」


友達

その言葉には悪意がない。
だからより、傷ついてしまうのだけれど。

「当然だろ?」


俺が、ここまで想いを募らせるなんて無かったな…

向日はピョンピョン跳ねながら、楽しそうに思い出を並べた。


この気持ちは伝えないし、伝えられない。

でも、俺とお前は友達だから、ずっと隣にいて笑い合っていれるよな。

「向日」

「ん?」


その、透き通るように白い、汚れを知らないお前を

誰かに色を染められてしまわぬように、

俺は例えどんな事が起きても、守りぬく事を
誓う。

「なんだよー。」

「何でもねぇ。」

馬鹿だな、俺は。
いや、馬鹿じゃねぇが

こんな不毛な恋に真剣になって。
でも、お前が初めてだったんだ。


大切にしたいと思ったのは。

「あーとべ、しっかりしろー。」

向日が俺の顔を覗き込んで目の前で手をひらひらさせている。

「アーン?少なくともお前よりは正気だぜ。」

俺の方が正気だっ!!とか喚いてたけど無視した。

気がつけば、もう駅で。
向日と別れるのはここだ
「んじゃ、また明日な。」
「あぁ」

改札の所で軽く手を振って、くるりと背を向けて歩きだす。

俺は向日が、夕暮れの街並みへと馴染んで消えて行くのを眺めていた。


向日とは長い付き合いだけど、知らない事がたくさんあった。

忍足にしか見せない顔。日吉と話があっている事。


全部、全部知りたい。

夢も涙も全部。

辛い事があったら支えたい。

幸せな事を分け合いたい。

こんな事を考えるのは初めてで、今までこんな感情を抱いた事もなかった。

こんな優しい気持ちになれたのも、
お前のおかげだ。岳人。

向日が見えなくなってから、ゆっくりと俺も家路を辿る。

歩いて帰るようになったのはいつからか


はぁっと溜め息をつけば白い息になって空に滲む。

胸の奥が締め付けられるような、切ない気持ちが降り積もる。


上を見上げれば、どんよりと曇る空。まるで俺の心の中のように


この気持ちには嘘偽りはない。

だから素直にただこう思う。

例えどんなことが起きてもずっと守ってあげるよ。













はい。WIILって、引っ越しとかお別れとかの歌かな?と思っていたのですが、今回、日常です。
「探していたものが何かを君が教えてくれたよ」の歌詞がよく分からなかった…ので省略…

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