NoVeL

□七不思議
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無機質で甲高い電子音が狭苦しい部屋の隅々まで響き渡り、その轟音は私の鼓膜を何度もめった刺しにする。新手の殺人方法かと疑うくらいだ。ああ、うんざり。カーテンの隙間から漏れる朝陽を見つめ、覚醒しきってない頭が勝手に朝を認識し、苛立ちは更に募るばかり。往生際の悪い私は、乱暴に目覚まし時計を叩いてアラームのやかましい口を封じ、再び布団の中へと潜り込んだ。

「まぁ〜こぉ〜♪」

私の苛立ちに素敵に追い打ちをかける、窓越しの声。一瞬思考して、無視することに決め込んだ。しかし、世界中の陽気さを凝縮したような声で何度も何度も名前を呼ばれる内に、それは全く無駄なことだと気づかされる。毎朝繰り返している日常なのに、私は何故こうも諦めが悪いのか。深い溜め息を吐いて、鉛のような体を布団の中から引きずり出し、力無くカーテンを開く。眩しさのあまり一瞬世界が白い空間に変わって、徐々に景色が戻ってきた。そして、アイツの姿も。

「滝川真琴<タキガワ マコト>〜!早く準備しないと強制突入するぞぉ〜!」

私がいるこの一戸建ての2階の窓に向かって大声で身振り手振り騒いでるバカ。私は再び溜め息を吐いたあと、無言でその場を離れ、学校へ行く準備を始めた。










玄関にある全身鏡に目を向けて、シャギーの入ったセミロングをチェック。いつもよりちょっとボリュームある気がするけど…ま、いっか。そして、何気なく自分の全身を上から下まで見渡した。高校の制服を身に纏った普通の生活を送る普通の高校生が、鏡の中から私を睨んでいた。

いつか中学校の担任が言ってた言葉をふと思い出す。高校生は大人寄りでもなく子供寄りでもない、中間管理職。曖昧な時期なだけに自他共に葛藤が多い。でもその分、心が奮い立つような感動も多いんだぞ、って。でも実際入学してみたら、平凡の平凡のそのまた平凡を絵に描いたような毎日しかなかった。そりゃ、私のクラスの女子の中には毎日が煌めいて楽しくて仕方ない、と言わんばかりのオーラを振りまいてる人間もたくさんいる。でも、私には全く理解出来ない。そもそも心が奮い立つような感動って何なの?結局、それは選ばれし人間にしか当てはまらない奇麗事なんでしょ。勉学で硬化した脳味噌しか持ってない先公が、知ったような口聞くなっつの。

突如湧き上がってきた憤りをドアノブにぶつけた。勢いよく開いた扉の向こうは、もっと白い世界だった。思わず空を見上げる。そ知らぬ顔で光を注ぎ込んでくる太陽に、心の中で思いっきり舌を出してやった。それでも私が、毎日学校に行く理由。それは…

「マコ、おっはよー☆てか、どんだけ待たせるんだよ!今からなら全力で走らないと遅刻するぞっ!」

うちの塀に寄りかかって、太樹は不満そうな表情で不平を言ってきた。胸の高揚が急激に冷めていくのが分かる。

「…何。まだいたの?」
「うわ、ひどッ!待ってた人間に対して言うセリフじゃないだろそれー!」
「先に行ってて良いっていつも言ってんじゃん」
「だって俺が迎えに来ないとマコは10000%遅刻するだろ?これは俺なりの愛情表現さ♪」
「私が遅刻しようがしまいが、太樹には関係ないでしょ」
「関係あるっ!何年幼馴染やってると思ってんだよ!」
「意味分かんない…てか、いちいち叫ばないで。頭痛くなるから」
「って、だから早く行かないと遅刻するんだって!ほらマコ、走るぞ!」
「はいはい」

彼は私の家の隣に住んでいる、熱海太樹<アツミ タイキ>。いわゆる幼馴染とかいう関係なのだけれども、昔から彼と一緒にいる自分に対して違和感があった。それも、高校に入ってからは特に。太樹は底抜けの明るさと面倒見のよさで、うちの学年では男女問わずかなりの人気者。けど私はこの通り冷めてるし、特に友達も多い訳ではないし、はっきり言って地味キャラの部類に入ってる。なのに小さい頃から太樹はずっと私の側を離れない。だからもちろん、彼女がいたこともない。って、それは私もそうなんだけど。思春期という時期に入ってからというもの、太樹に対しての疑惑の念はぐるぐると渦を巻くばかりだった。
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