おはなし
□ダッフルコートに愛を
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「うーん、いいねぇ」
だらしない面をぶら下げて近づく男は、スカウトマンか、はたまたカメラマンか。
「誰だよ……テメェ」
青筋を浮かべる俺は、セーラー服でもなければ、ましてや全裸なはずもない。
そして今日も、仙道は俺のダッフルコートを愛して止まない。
「誰って……越野専属のファッションチェッカー、またの名を仙道彰ともいうけど」
シレッと吐かれた言葉に俺は生温くなった『お〜いお茶』を吹き出した。
誰がファッションチェッカーだ、誰が!
……俺が毎日マフラーの巻き方を変えているのを気付けないくせに。
鏡の前であーだこーだと悩む時間を返していただきたいもんだ。
「おい、ファッションチェッカー!」
「ん?」
「俺のダッフル、どの辺がどう似合ってんのか教えろよ」
「……内緒」
「なんでだよ!」
「俺だけが知ってればいいんだからさ」
「ウソつけ!何も考えてねえだけだろ」
攻撃的な北風が吹いて、同時に背中が丸くなる。
――春よ、来るな。
俺たちは、馬鹿馬鹿しいほど同類だ。
END