WONDERFUL NOVEL

□- その紫紺に映るのは -
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相手の瞳に自分以外の者が映っているのが、酷く気に食わない。


その感情を、人は何と呼ぶのだろうか。






- その紫紺に映るのは -






空が赤く染まる夕暮れ時。
十一番隊隊舎の縁側には、恋次と弓親が並んで座っていた。

弓親の手を見れば、消毒液やガーゼなどが握られていて。恋次の体を見れば、そこかしこにガーゼや絆創膏が貼られている。
一角の特訓を一日中受けた恋次の、体のあちこちにできた傷を弓親が手当てしてやっているという訳だ。



「あ、ほら、ここも怪我してる」

やれやれ、といった様子で恋次の擦り剥いた腕にガーゼをあてる弓親。
呆れたようには言うものの、その表情は親しい者の前でしか見せないような、とても柔らかいものだった。

「はい、完成!」
「ッ…痛いっスよ、弓親さん」

処置を終えた弓親がガーゼの上からぽんとそこを叩けば、恋次は勘弁してくれ、というように患部を押さえてさっと後ろに身を引いた。
それを見た弓親は楽しそうにクスクスと笑う。

「笑い事じゃないッスよ…」

困ったように恋次が言うと、弓親はごめんごめんと言いながらも未だ口元を緩ませていた。



「…終わったなら行くぞ、弓親」

二人でそんなやりとりをしていると、穏やかな空気を割って突然低い声が聞こえてきた。
縁側から少し離れた柱に寄りかかり、二人の様子を見ていた一角である。
腕を組んだまま面白くなさそうな表情を浮かべている。

その険しい表情を見た恋次は、どうすればいいのか戸惑っていたのだが。

「うん、今行くよ。じゃあね、阿散井」

呼ばれた弓親はと言えば、一角の表情とは裏腹に、嬉しそうに顔を綻ばせながら返事をして立ち上がる。

「…あ、弓親さんありがとうございました」

ぱたぱたと一角のもとに走り寄って行く弓親の背中に向かって恋次は言った。
そして、今度は一角にも。

「一角さん、明日もよろしくお願いします!」

立ち上がって威勢良くお辞儀をすれば、一角がそれを一瞥して。

「…おう」

そう一言だけ残し、弓親を連れて廊下を歩いて行った。


「…なんだ、その顔は」

暫く廊下を歩き、一角の部屋が近付いて来ると、弓親の顔を見た一角が眉間に皺を寄せながら言った。

「なんだ、ってことはないだろう? 僕の美しい顔に向かって」

いつもの調子で弓親が言葉を返すと、一角の眉間に刻まれた皺が更に深くなる。

「だから、そのニヤけ顔はなんだ、って聞いてんだよ!」
「別に怒らなくったっていいじゃないか」

どこか居心地の悪い一角は少々声を荒げるが、弓親には全く堪えないらしく、平然とした様子で一角を見上げてきて。

「僕はね、嬉しいんだよ」

そう呟くと、先程までのからかうような表情が嘘のように、ふっと綺麗な笑みを見せる。

「……何がだ?」

不意に見せられた表情に、一角は一瞬目をみはったため、やや間があってから尋ねた。

「言って欲しいの?」

試すような、何かを含んだような弓親の言葉に、一角は考えを巡らせる。
揶揄するような弓親の表情や、嬉しいという言葉。それに先程の自分の行動を照らし合わせて…。

そして辿り着いた答えに、一角は羞恥で頭を抱えたくなった。

「…いや、いい」

苦虫を噛んだような顔で告げながら、もう少しで自分で自分を辱めるところだった、と一角は安堵したのだが。

「君は、すぐに態度に出るよね」

僕としては分かり易くていいんだけど、と嬉しそうに話す弓親に、再び一角を羞恥が襲う。
焦ったり、安堵したり、難しい顔をしたり、と忙しく百面相している一角を見て、弓親は笑みを浮かべる。
しかし、愛しいものを見つめるような柔らかいその笑みは、すぐに様子を変え。

「…こういう時、僕だけじゃないって感じられる」

自嘲の混じった微笑みをたたえて、弓親はぽつりと呟いた。

独り言のように落とされたその言葉に、一角が歩みを止める。
どうしたのかと疑問に思った弓親が振り返った途端、腕を掴まれて強引に引き寄せられた。

「…一角?」

抱きしめられるまま、その胸に頬を埋め、どうしたの?と問えば、抱きしめる力が強くなって、頭に大きな手が添えられる。

「なんて顔してんだ、バカが」
「…酷いな」

ぶっきらぼうな言葉と、強くて優しい腕。
不器用ではあるが如何にも一角らしい愛情表現に、弓親は小さく笑って一角の背中に腕を回した。
すると、弓親の頬に手が添えられて。
導かれるままに弓親が上目で見つめれば、その瞳の中に何かを見つけた一角がフッと微かに笑みを零した。


自分を見つめる濡れた紫紺に吸い寄せられるように、一角が顔を近づけ、二人の唇が重なる直前まで。


その紫紺には、確かに一角が映っていた。

END


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雨月灰音様の管理されるサイト、灰の涙様との相互記念小説としていただきました素敵角弓小説です!
『嫉妬する一角』とのリクエストをさせて頂き、とっても素敵な小説になりました!
もう、嫉妬してる一角に萌えまくりました!
読みながらニヤニヤしてた変態です(←)
格好よくいようとしてるのに、弓親に振り回されて百面相しちゃう一角が好きです(ぇ)
本当ありがとうございます!
またまた、了承得る前にHPに掲載しちゃいました。
はぃ、最低で申し訳ございません…
いやね、素敵なモノを頂くと、早く載せてしまいたくてうずうずするんです(ぉぃ)
雨月灰音様、本当申し訳ございません…
これからもよろしくお願いします!
 

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