WONDERFUL NOVEL

□- まるでお菓子のような -
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一角の部屋に泊まることが増えるにつれ、一角の部屋に弓親のものが増えていく。
歯ブラシ、シャンプーとリンスから始まって、お揃いのカップにお茶碗、タオル、パジャマ……
そして今日、弓親はついに一角にドライヤーを買わせたのだ。

今日まで、一角の部屋に来たときは髪を自然乾燥するしかなかった。
それに対してあの弓親が不満を言わないはずがない。
ドライヤーが欲しいとしつこいほど言い続けて、一角にようやく買ってもらえたのだ。
弓親はドライヤーが使えることにある種の満足感のようなものを感じながら入浴した。
髪を洗いながら思わず鼻歌を歌っていたくらいだ。

「お風呂、上がったよー」

弓親が髪を拭きながらそう言えば、リビングでパソコンに向かい仕事をしている一角は、いつものようにおぅとだけ返事をした。
弓親はるんるん気分で机の上に鏡を置き、近くのコンセントに箱から取り出したドライヤーのプラグを差し込んだ。
準備完了。
椅子に座っていつもより心なし丁寧に髪を拭いていれば、一角が弓親の後ろにやってきた。

「どうかした?」
「いや、そいつがどんなんか見ようと思って。せっかく買ったんだし、気になるじゃねぇか」

そいつと言って一角が顎で示したのは買ったばかりのドライヤー。

「そっか。一角、ハゲだからドライヤー使ったことないもんね」
「ハゲじゃねぇ!……たしかに、使ったことはねぇけどな…」

タオルで髪の水分をあらかた拭き取った弓親は、振り向いて一角にドライヤーを渡した。
その顔には微笑みが浮かんでいる。

「じゃあ、ドライヤー初体験してみる?」

思ってもみなかった誘いに、一角は一瞬戸惑った。
が、興味は多いにある。

「…俺がやっても…いいのか?」
「ちゃんとやってくれるのならね」

一角はぱっと表情を明るくさせて、弓親からドライヤーを受けとった。
ドライヤー一つでこんなに嬉しがるなんて、子どもみたい。
弓親はくすりと笑いそうになるのを堪えて、鏡に向き直った。

「こんなんで髪乾くのか?」

手の平に温風をあてながら、一角は眉をひそめる。

「大丈夫。近付けすぎると髪の毛痛んじゃうから、絶対に10センチ以上は離してよね」

あぁ、と言って一角は弓親の髪にドライヤーをあてた。
左手で髪の束をばらしながら、右手にもったドライヤーで丁寧に髪を乾かしていく。
その動きは初めてドライヤーを使ったとは思えず、左手が髪で遊んでいるような気持ちよさに弓親は瞳を閉じた。
耳にはドライヤーのモーター音しか入ってこないが、髪の毛を触られている感触にすごく安心してしまう。
このまま髪の毛が渇かなくてもいいやなんて思ってしまう。

「弓親の髪、さらさらしてんな」

ドライヤーをかけながら一角が言った。
すぐ後ろで発せられる一角の低い声が、弓親の身体の芯を震わせる。

「すっげぇ柔らかくて…クセになりそ…」

クセになっちゃいそうなのは、自分のほうだと怖くなる。

カチッという音がして、モーター音が止んだ。
弓親がそっと瞳を開ければ、鏡には己の髪を手で掬う一角の姿が映っている。
一角の指の間から乾きたての髪が滑り落ちて、弓親の頬をくすぐった。

「それに、うまそう」

一角は漆黒の、艶やかな髪を掬いながら、唐突にそう言った。

「髪がうまそうって…よっぽど餓えてるのかい?」
「違うけどよ、柔らかいし甘い匂いするし…普通にうまそう」

馬鹿じゃないの?と言おうとすれば、鏡に映る一角が手に掬った髪に口吻ける姿が目に入った。
その美しい姿に、声が出せなくなる。
一角が口を開き、手を近付けて髪を食む―…

「やっぱ食うのはよした」

寸前で、一角が髪を離した。
髪が手から滑り落ちた瞬間、空気の流れが変わったようで、弓親は自分が緊張していたことを知った。
今の自分の顔を見られたくなくて、鏡を手に椅子から立ち上がる。

「本気で食べるつもりだったのかい?」

弓親はあくまでそっけなく言いながら、ドライヤーのプラグを抜く。
さっきの緊張が少し残ったまま振り返ると、そこにいるのはいつもの一角で内心ほっとした。

「半分本気だったけど、食っちまったら楽しみが減るからな」
「楽しみ?」
「弓親の髪乾かす楽しみ」

どうやらこれからは、一角が自分の髪を乾かしてくれるつもりらしいと弓親は諒解した。
ドライヤーを渡し、リビングへと戻る一角の背中を見ながら、弓親はさっきまであった髪を掬う手を思い出していた。
想像の手に重ねるように、己の手で髪を掬ってみる。
柔らかなそれは、ふわりと甘い芳香をさせ指の間を流れていった。

嗚呼、成る程。

弓親はくすりと笑った後、ドライヤーを何処にしまおうかと思案を始めるのだった。






     まるで
       お菓子の
          ような





END


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Freankish!様、二周年おめでとうございます!!!
これからもずっと応援していますので、頑張ってください!
と、いうことで、頂いちゃいました!
ドライヤー買わせちゃった弓親に萌えた!(笑)
そして、髪を食べたがる一角にドキドキしました!
でも、一角ったらうらやましいー!!
私も弓親の髪乾かしたい…!
本当においしそうですよね←
一角が弓親の髪触ってるシーン想像すると、萌えます!
本当素敵な小説ありがとうございました!
勝手に頂いてしまいましてすみません(笑)

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