長編小説

□[10]逃走
1ページ/1ページ

あれから亮太はしばらく泣いていた…自転車の鍵を握りしめながら…。

「うぅ…りょ…う…ゴメンな…」

そんな亮太をただ君明と共に見つめることしか僕たちには出来なかった…。



その時森の奥の暗闇からヒタヒタと足音が聞こえてきた。

「…な…なんだ…」

泣き続けていた亮太が泣き止んで呟いた。

「そんなに辛いなら貴方もあの世に送ってあげましょうか…」

その女の顔を見て全員が呆然とした。口が耳まで裂けているのだ。口裂け女…。

「亮太君明逃げるんだ

僕は素早く君明の車椅子を押す。

だが亮太がいきなりの出来事に固まってしまっていた。

「亮太

僕が呼んでやっと我にかえる。

「お、おう」

だが亮太はすぐに足を止めた。

「…了…」

「辛いかもしれないけど我慢してくれ…

「わかってる…」

そうやっているうちに口裂け女がどんどん近づいてくる。




そして…



何分ほど走っただろう


君明が突然口を開いた。

「僕のことはイイから…2人で逃げて…」

「何言ってんだよ…」

亮太がじっと君明を見つめて言う。

「僕はもう無理だ…僕がいると足手まといになる…それに…最後に亮太にも…会えた…」

亮太の手に力がこもる。

「ふざけんな…ふざけんなよ…

「それに…もう疲れた…僕は…押すよ」

亮太の手の力が抜ける。

そして亮太の手が思いっきり振り上げられた。





バシ



「馬鹿野郎お前はまだスイッチを押すのは早いだろうがよそれに誓っただろ

君明の目に涙が溜まる。

「最後まで…3人で頑張ろう…」

君明がゆっくりと頷く。

それと同時に亮太も頷く。




そうだ。僕たちが頑張らなくちゃならないんだ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ