恋華の広場

□小さな恋のメロディ<後編>
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それを見兼ねたカガリが、両膝に両手をあてて腰を少し曲げた。視線を合わせてきたカガリは、困ったような笑顔を浮かべていた。


「こーら、相手が名乗ってくれた時はちゃんと自分も名乗らないとダメだろ?」


母親のように注意するカガリに、俺のイライラは増すばかりだった。キラも、何も答えない俺たちを困ったように見つめてきて、居心地が悪くなった。
一刻も早くこの場から去りたい俺は、ラクスの手を引いて無言で歩きだした。背後では、俺とラクスの名を呼ぶカガリとキラの声が聞こえたが、彼らが追ってくる事はなかった。
フレイ・アルスターとイザーク・ジュールが、カガリとキラに俺たちの態度に対して文句を言っている声だけが耳に焼き付いていた。
「今時の小学生のガキなっていない」とか、「目付きの悪い双子ね」とか…。

そんな言葉を聞きながらショッピングモールを出た俺は、ふと足を止めたラクスの顔を見た。すると、嘘泣きはよくするが、本気で泣くことなど滅多にないラクスの青い瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。


「私…ひっく…く、悔しいですわっ」

「………」

「あの方とキラお兄様はとてもお似合いで…っく…しょ、小学生の私はただ嫉妬して…ひっく…睨んだり、こうして泣くことしか出来ませんものっ…ふぇ…っ」


ラクスは周りに人がいるのにも関わらず、幼稚園児のようにわんわん声をあげて泣いた。俺も彼女の気持ちが痛いほどよくわかって、視界が滲むのを感じた。
叶わぬ恋、縮まる事のない年齢差…様々な事が頭に浮かんでは消えて、けれどまた浮かんできてそれの繰り返しだった。
堪えきれない涙は、幼い嫉妬と悔しさを洗い流してはくれなかった。

俺は、声をあげて泣いているラクスの手をぎゅっと握りながら、また歩きだした。涙で前がよく見えなくて、何度も服の袖で涙を拭いながら家路に着いたのだった。

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