【怪文書】

□狭間の話【長編】
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幽助達が冥界復活を阻止してから数日。

あれだけ猛威を振るっていた豪雨は何事もなかったかの様に晴れ、
以前と変わらぬ穏やかな空と地平線が、ゆったりと審判の門の周りを取り囲んでいた。

しかし、
門の内にある霊界の民の心は決して穏やかではない。


「光も射さぬ暗がりから、最も恐ろしいモノをこの世界に引き込んでしまった」


そう感じている霊界人は、決して少なくない。

この世の依るべとなる肉体を破壊された冥界の住人は
霊体を拘束され、この審判の門に連行されたのだ。

耶雲達は霊界が持つ最高の技術を用いた呪具で
内在される総ての力を封じ込められ、
幾重にも巻かれた厳重な結界に収容されていた。

そしてさらにエンマ大王は、完全に彼らと外界とを隔て、
彼らのエネルギー源である負のエネルギーすら遮断すると言いだしたのだ。

「父上!
そんな兵籠攻めのような真似はお止めください。

旧来の敵とは言え、これでは生殺しではありませんか。
賛成できません」

「アレは霊魂も消滅させられない上、
先の大戦であれだけ厳重な封印を施したにも拘らず、
たった数千年で破りおった。
あの忌まわしい悪神めの力を少しでも奪うには、
こうするしかない」

コエンマは反対したが、押し切られた。

確かに大王が不在だったとはいえ、
耶雲は特防隊やコエンマもろとも霊界を水底深くに沈める程の力の持ち主ではあるのだが、

コエンマにはエンマ大王以下古参と呼ばれる連中が、この耶雲という男を病的に恐れている様に見えた。

(何故?)

かつて霊界と冥界が戦い、敗れた冥界の王・耶雲は
【闇宇宙】と称される特殊な閉鎖空間に幽閉された。

それは霊界の民ならば誰でも良く知る昔話だ。

だが、何故霊界は冥界と争ったのか?

その詳しい事情を知るものは少なく、そして決まって口を閉ざす。
何故?

コエンマが以前から疑問に思い、満足のいく解答が得られなかった案件だった。

そしてその疑問の核心、
冥界の王が此処、霊界の結界牢獄に今、存在している。




(…会って、話がしてみたい)

彼の欲求はつのった。
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