「蔵…、」 深夜二時。 合宿で疲れて眠っているであろう、彼の部屋の扉をそっと開く。 すると案の定。 無防備にすうすうと寝息を立てて眠っている彼の姿がそこにあった。 「蔵……」 遠慮がちにもう一度。 その名を呼べば、怖いくらいに整ったその顔が僅かに顰められる。 そしてゆっくりとその瞳を開けると、彼は私の姿を確認して少し驚いた風に瞬きを繰り返した。 「何や、夜這いか。」 「…………、」 そう言いながら、蔵は小さく欠伸を噛み殺して私の頭をそっと撫でる。 「なん?身体が疼くんか?それやったら俺が抱いて…」 「それでもいい。それでもいいから、ここにいさせて。」 零れた声は、自分でも驚くほどか細かった。 自分で言った冗談をそう返されるとは思わなかったのか、蔵は首に巻きついてくる私の腕を掴んで顔を覗き込む。 そして目が合うと、真っ直ぐと真剣な瞳で私の名前を呼んだ。 「ホンマに。どないしたん?」 「…どうもない。」 「何かあったんか?」 「何も…」 じゃあ、と続く言葉を言いかけた蔵の口を、唇で塞いでしまう。 今は何も聞かずに、只傍に居させてほしい。 「我儘言って、ごめん。」 こんなの、私の自分勝手なお願いだ。 けど、蔵はそんな私を意とも簡単に甘やかす。 「こんなん我儘ちゃうわ。」 「蔵、ごめん。」 「謝んな。」 もっと俺に我儘言ったらええ。 そう言いながら、蔵は私の身体を引き寄せて、そのままベッドの中に引き入れた。 「いい子やな。」 「蔵、蔵…」 「よしよし。俺はここにおるから。」 とんとんとあやすように、優しいリズムを持って蔵の手が背中を叩く。 「俺はいつでもお前の傍におるから。」 だから、安心しておやすみ。 そう言って降ってきた優しいキスに、私は小さく声を漏らして応えた。 ただ無性に、 寂しくなっただけ モドル |